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心理・チュートリアル通信「研究計画書作成について」(2)

2022年度
河合塾KALS 臨床心理士指定大学院講座 チュートリアル通信
チュートリアル通信では、大学院に合格したKALSのチューターが、勉強法や参考図書、研究計画書について、各大学院の様々な情報や、心理士事情など皆さんに有益となるようなコンテンツをお送りしていきます。日々の勉強の合間の息抜きとして、是非ご覧になってみてください。
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研究計画書作成について(2)

新大阪校チューター:山根 

皆さんこんにちは。新大阪校心理系チューターの山根です。
今回は「研究計画書」についてお話させていただきます。
研究計画書とは、「修士課程の2年間で行う研究の内容とその計画について」を、一定の形式に準じて作成したものです。この研究計画書は、大学院受験において最も重要な要素の1つであり、そして、多くの受講生が頭を悩ませている課題の1つでもあります。

受験生の中には、もしかしたら、「研究はしたくない(興味がない)、大学院では理論や技術や経験が学べれば(もしくは資格が取れれば)それでいい。」と考えている方もいるかもしれません。それ自体を否定することはできませんが、僕は臨床家を目指す人にこそ、大学院で研究に取り組む意義があると考えています。
それは、言わずもがな臨床心理学が科学であるからです。これは、僕の指導教員の受け売りですが、科学であるということは、「言葉にして説明できる」ということです。「なんだかよくわからないけど役に立った」では、科学ではありません。そして、「言葉にして説明する」取り組みこそが、まさに研究そのものであり、皆さんの研究計画書は、それらのことにどれだけ真摯に向き合ってきたかが問われています。ですので、実践を重んじる方ほど、研究を大事にしてほしいと僕は思っています。

前置きが長くなりましたが、あらめて、研究計画書について、特に今回は研究テーマ決めとその考え方に重点をおいてお話させていただこうと思います。今日の話の一部でもご参考なれば幸いです。

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① 研究計画書の形式

研究計画書は、各大学によって書式が決まっています。文字数が多いところもあれば、コンパクトにまとめる必要がある大学もあります。志望校がある程度絞れている人は、まずは志望大学の研究計画書の書式を確認しましょう。

一般的には、研究計画書は心理学の論文と同じような構成で書くことになります。その構成は、以下のようなものです。

  1. 問題(研究の背景・目的・仮説など)
  2. 方法(データの取り方・対象者・使用する尺度など)
  3. 引用文献

一般的な論文の「結果」と「考察」を省いたような形ですね。
これらを書き進めていくために、まずは研究のテーマを決める必要があります。研究テーマを決めるときには、いくつかのポイントがあります。

  • その研究テーマに取り組む意義
    その研究に取り組むことが社会的・学際的にどのような意味があるのか明確にすることが大切です。
  • 先行研究との違い(独自性と新規性)
    研究に取り組むときには、これまでその領域・テーマについてどのような研究がなされてきたかを概観し、先行研究では不足している(明らかになっていない)点、もしくは新たな別の観点を提示する必要があります。
  • 実現可能な研究か
    研究計画書は、修士の2年間で可能な研究内容になっている必要があります。
ただ、このテーマ決めが大変難しいです。「何をすればいいかわからない」という声もよく聞きます。そこで、テーマ決める際の僕なりの考え方をお伝えさせていただきます。

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② 一旦全部忘れましょう!

まずは、一旦全部忘れましょう。社会的・学際的な意義も、独自性も新規性も、実現可能かどうかも一旦忘れてください。

その上で、自分が興味のあることを考えてみてください。難しい制約が先に立つと発想が乏しくなってしまいます。まずは、自由に考えてみてください。
これまでの自分の人生を振り返り、何に興味を持ってきたでしょうか。大学生の間に、もしくは社会人経験の中で、どのようなことに課題を感じ、どのようなことをもっと知りたいと思ったでしょうか。
もしかしたら、何も手元にないと、浮かぶ発想も浮かばないかもしれません。その時は、論文や書籍などの先行研究を見てみましょう。CiNii Researchやグーグルスカラーなどで気になるワードを試しに検索してみてください。ほんの小さな興味の種が見つかれば、そこから広げていくことが可能になります。

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③ 先行研究を調べて、仮説を立てよう!

ある程度、興味のあるテーマが見えてきたら、あらためて研究活動に取り組んでみましょう。まずは、先行研究を調べるところからです。
その領域でどのような研究がされてきたかの全体像をつかみましょう。これには地道な努力と時間が必要です。ただ、この先行研究をしっかり調べているかどうかが、今後の問題・目的の質に大きく関わってきますので、たくさん時間をかけてほしいと思います。

そして、次は独自性と新規性です。
理想的には、ある問題意識のもと、先行研究を探索し、新たな観点を見つけることができればそれが1番です。その方法でテーマを絞れた人は、どんどん進めていきましょう。

ただ、誰しもがそのようにテーマを見つけられる訳ではありません。そのような時は、ある程度の枠組みを作って考えたほうが進めやすくなるかもしれません。それは、とりあえず自分の仮説を立ててみることです。
従属変数と独立変数に分けて考えてみるものいいかもしれません。まず、仮説を立ててみて、先行研究に戻ってその仮説に関連する研究を調べて、また仮説をアップデートして・・・この繰り返しが、自分の研究のオリジナリティを高めていくことに繋がります。

先行研究を調べるときは、まず1本論文見つけて、その引用文献をみるようにしましょう。引用文献は、つまるところ関連研究のリストです。もし興味のある論文があったら、その論文の引用文献に載っている論文もきっとあなたの興味のある論文です。そして、またその論文の引用文献を確認しましょう。そうやって、芋づる式に先行研究を探していきましょう。ただ、この方法はどんどん発行年数を遡っていくことになりますので、できる限り最新の論文もチェックするようにしましょう。

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④ 修士の2年間でどこまでするかを決めよう

先行研究を調べて、ある程度の仮説が浮かび上がってきたら、ここで初めて実行可能かどうかを検討しましょう。もう少し言葉を足すのであれば、修士2年間でどこまでするかを考えてみましょう。

よく受講生の方が、特定の精神疾患群、もしくは小学生や会社員など特定の集団を対象とした研究計画を考えて来られます。そして、倫理的な問題やデータ収集の困難さゆえにその研究をあきらめてしまうことが多いようです。

確かに、修士の間に実施できないことも多くあります。しかし、研究はもっと細分化して捉えることが必要です。
研究の中で、実際の患者さんを対象にするのは、ある意味最終段階です。そこに至るまでには、健常者を対象にして理論を検討する段階があります。健常者の研究も立派な研究であり、それは将来的にあなたがしたい研究にもつながっています。ですので、修士2年間で患者さんを対象にはできなくても、その前段階として、健常群(多くの場合が、大学生を対象にすることが多いですね。)を対象にした研究に細分化して考えてみましょう。

そこから、研究に興味が湧き、研究を続けるもよし。もし現場に出ることになっても、健常者の特徴を知っているということが、実際の患者さんと向き合うときにきっと役に立つはずです。

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今日は、研究テーマの考え方(主に心構え的なこと)についてお話しました。僕の印象として、受講生の中には研究計画書の形式にとらわれ、どこか窮屈そうに(本当はあまり興味を持てていない様子で)取り組まれている方が少なくないように感じます。もっと自由に、自分のやりたいことを探してみましょう。その全てを2年間で消化できなくても、できるところまでを研究計画書にまとめていただければ大丈夫なのです。

そしてもう一つ。先行研究をたくさん読みましょう。研究計画書が進まない方の特徴として(大変お忙しいということは重々承知していますが)圧倒的に先行研究を読んでいる数が少ないことが挙げられます。実際に研究計画書内で引用する論文は数編程度かもしれませんが、裏ではその何倍も読み込んでおく必要があります。まずはその領域の専門家になる心持ちで、過去の研究者たちの努力と研鑽を掴み取ってください。

ときには1人で考えても、なかなかうまくいかないこともあります。ゼミの先生や級友に相談するのもいいと思います。KALSのチューターも、できる限りお手伝いさせていただきますので、気軽にいつでもお話しにきてください。お手元に何もなくても大丈夫、一緒に悩んで考えていきましょう。
それでは。