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茂苅チューター(名駅校)第9回 大学生の早期学習

チュートリアル通信
DSNの整理をしよう!



名駅校 心理系チューター 茂苅 梓沙

こんにちは。名駅校チューターの茂苅です。
今回のテーマは【DSM】です。そもそもDSMって何?
ということと,最新版のDSM-5における変更点についてお伝えしていきたいと思います。

変更点について,全てをこの場で扱うのは難しいので大きな部分,心理士にとって重要だと思われる部分のみに絞っています。理解が進んだら,ぜひ細かい部分もおさえていってくださいね!



 【DSMとは?】
Ⅰ.概要
DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は,アメリカ精神医学会によって作成された診断・統計マニュアルです。
1952年に第1版が作成されてから,改訂が繰り返されており,最新版は「DSM-5」といいます(2013年5月刊行)。
DSMや(WHOによる)ICDが発表される前では,世界共通の診断基準がなく,診断者によって診断が異なることがあり,混乱をまねいていました。そのため,“共通の基準を”ということで作成されたと考えられます。

Ⅱ.DSMの特徴(DSM-Ⅲ以降)
1. 症候論的記述を採用
病因を特定することが困難なことから,観察される症状に注目して精神疾患を捉えようと考えられました。

2. 操作的診断基準
(概要でも触れたように,)診断者による食い違いと,それに伴う混乱があったことから,統一された手続きで診断が行われるようにすることを目的に基準が作成されました。
定められた各症状をチェックする形で診断を行うことになります。

3. 多軸評定システム(※DSM-5では廃止。後ほど紹介)
1人のひとについて,5つの次元から総合的に診断しようとするものです。多軸評定は,生物・心理・社会の分化統合モデルを前提としています。以下に5つの次元(5軸)を載せるので参考にしてください。
Ⅰ.臨床症候群          Ⅱ.人格障害と知的障害      Ⅲ.身体疾患
Ⅳ.心理社会的問題とストレス Ⅴ.生活適応度



【DSM-5の変更点】
Ⅰ.多軸診断の廃止,カテゴリー診断から多元的診断へ
多軸診断が一切廃止されたわけではなく,考え方は残っていると考えられます。
表記法や参考にすべき尺度が変わりましたが,生物・心理・社会の総合的な視点から精神疾患を捉えようとするということについて変わりはないということです。
また,従来はカテゴリー診断を行っていましたが,DSM-5では,多元的(ディメンション)診断が採用されました。
カテゴリー診断は,ある精神疾患において典型的な症状をいくつかあげ,そのうちのいくつ以上がそろっていれば診断できるという方法です。
一方,多元的診断は,基盤に多元的なスペクトラムを想定し,その上で,%表示で重症度を見ようという方法です。
ただ,この多元的診断方法が適合するのは,多軸診断における第Ⅱ軸で,他の大多数の精神疾患においてはカテゴリー診断がそのまま採用されていると言われています。

Ⅱ.DSM-5に関する児童青年期領域の変更点
ここからは診断名ごとに見ていきたいと思います。まずは,児童青年期における変更点について,以下の(1)~(3)について見ていきましょう。

(1)“精神遅滞”から“知的障害”へ

DSM-Ⅳ-TRでは“精神遅滞”と呼ばれていましたが,DSM-5では“知的障害”に変更され,下位分類として,①知的障害②全般性発達遅延③特定不能の知的障害が設定されました。
従来は,知能指数(IQ)で重症度の判定をしていましたが,DSM-5では,重症度評価の指標として生活適応能力が重視され,具体的な状況から重症度の判定を行う形になりました。おもに学力領域,社会性領域,生活自立能力領域に関しての行動について見ていきます。
このような変更があった背景には,知能指数というものが固定的ではないこと,評価方法によって変化してしまうということがあります。

(2)“広汎性発達障害”から“自閉スペクトラム症”へ
DSM-Ⅲ以降,自閉症を代表とする生来の社会性の発達障害を示すグループを広汎性発達障害と呼んできました。
DSM-Ⅳでは,①自閉性障害,②レット障害,③小児期崩壊性障害,④アスペルガー障害,⑤特定不能の広汎性発達障害に分類していました。DSM-5では,これらの下位分類がなくなり,②レット障害を除く①③④⑤を“自閉スペクトラム症”と呼ぶことになりました。
※スペクトラムという用語は,「連続した」という意味を持っています。障害が「あるか/ないか」という視点で捉えるよりも,「濃いか/薄いか」という視点で捉えた方が正確で,それが本人と周囲にとってどのくらい困難をもたらしているかという重症度判定を重視しようという考えが背景にあると考えられます。
また,診断基準も変更されました。従来,(ア)社会性の障害,(イ)コミュニケーションの障害,(ウ)想像力の障害というWingの三つ組みの各領域の機能の遅れや異常の有無によって判定されてきました。
DSM-5では,(A)社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害,(B)限定された反復する様式の行動,興味,活動にまとめられました(従来の(ア)と(イ)の関連が強いとして,(A)にまとめられました)。

(3)注意欠如/多動性障害(注意欠如/多動症)について
 以前まで,注意欠如/多動性障害は行動障害の分類の中に含まれていました。しかし,DSM-5では,自閉スペクトラム症などと同じ“神経発達症(神経発達障害)”の中に含まれることになりました。
 診断項目全体としては大きな変更点はありませんでしたが,変更点としては,①症状発現年齢が7歳以前から12歳以前に引き上げられたこと,②17歳以上の場合では下位項目を5項目満たせばよいと診断基準が緩和されたこと,③重症度分類が導入されたこと,があげられます。

Ⅱ.DSM-5に関する成人の精神疾患における変更点
続いて,成人の精神疾患について見ていきたいと思います。
(1)統合失調症スペクトラム障害について
 これまで羅列されていた統合失調症カテゴリー内の各診断を,DSM-5では一連の連続体として,“「統合失調症スペクトラム”とまとめることになりました。
中核症状である,①妄想,②幻想,③解体した思考・会話,④ひどくまとまりのない言動または緊張病性の行動,⑤陰性症状について,(ア)症状の有無,(イ)強さ,(ウ)持続時間の違いによって重症度が異なるという考え方をしています。また,破瓜型,緊張型,妄想型という下位分類は削除されています。

(2)“気分障害”から“双極性障害および関連障害群/抑うつ障害群”へ
 DSM-Ⅳでは,気分障害として,双極性障害と単極性うつ病がまとめられていましたが,DSM-5では“消極性障害および関連障害群”と“抑うつ障害群”に分けられることになりました。その背景には,①双極性障害と単極性障害は別の病気である,②混合性病像の取り扱いを整理する,③双極性障害の過剰診断を減らすという意図があると考えられています。

(3)不安障害について
DSM-5では,①強迫性障害,②心的外傷後ストレス障害(PTSD)/急性ストレス障害が独立し,①が“強迫症および関連障害群”に,②が“心的外傷およびストレス因関連障害群”に含まれることになりました。
また,従来はパニック障害と広場恐怖を分けることはできませんでしたが,DSM-5では独立して記載されるようになりました。
さらに,分離不安障害と選択性緘黙の中核症状が不安であることから,これらも不安障害に含まれることになりました。




いかがでしたか。
今回はざっくりとした説明になってしまったので,わかりにくいところ,なんで?と思った部分もたくさんあったと思います。
そのなんで?と思った部分も大切にして,その部分も含めて調べてみてくださいね!

DSMについて理解することは受験のときだけでなく,心理士になるうえでも重要なことだと思うので,ぜひ受験勉強でおさえていってください(今回触れられなかった細かい部分もぜひ!)。
私もみなさんと一緒に学んでいきたいと思います!最後まで読んでいただきありがとうございました。


引用・参考文献
丹野 義彦ら(2015).臨床心理学 有斐閣
橋本 忠行・佐々木 玲仁・島田 修(2015).心理学の世界専門編13 アセスメントの心理学―こころ
の理解と支援をつなぐ― 培風館
森 則夫・杉山 登志郎・岩田 泰秀(2014).臨床家のためのDSM-5 虎の巻 日本評論社