【2016春Ver.】チュートリアル通信第8回 合格者が語る!研究計画書上級編(2)
チュートリアル通信
チュートリアル通信では、大学院に合格したKALSのチューターが、試験対策や参考図書、研究計画書について、各大学院の様々な情報や、税法関連の小ネタなど、
皆さんに有益となるようなコンテンツをお送りしていきます。日々の勉強の合間の息抜きとして、是非ご覧になってみてください。
河合塾KALS 税理士「税法」科目免除大学院 講座
第8回 研究計画書の内容をレベルアップ
年も明けて、いよいよ春入試のシーズンに突入です。今回は、終盤に入った研究計画書の上級編の第二弾として、内容のレベルアップについてお話をしようと思います。
● 判決分を読む
正直、研究している裁判の判決分をお読みになっていない方が多いようです。本来、判例研究はその判決分を読むことから始まります。特に、地裁、高裁などの判決分を読むと事実関係が詳しく書かれています。これに対して、最高裁の判決分は短いのが一般的です。それは、最高裁が法律解釈のみを担当する「法律審」であるためです。事実認定の役割を負う「事実審」である地裁や高裁の判決を読むと判例評釈では漏れていた背景の説明が詳しく分かります。判決分は以下のところなどから取得してください。
☆「裁判所」裁判例情報
● 立法の背景を調べる
時代の流れとともに、法律の文言が時代遅れになった時には、立法者の意思や法律の目的を立ち返って解釈によって対応をしていくことになります。判例評釈の中にもよく立法の趣旨(あるいは、改正の趣旨)として紹介されていますが、自分でその趣旨を調べてみることも重要です。口頭試問などでは、自分で立法時の議論を知っていることが、大きな自信にもなりますので、できるだけ試みてください。
1.コンメンタール、逐条解説
まずは、コンメンタールあるいは逐条解説を見てみましょう。多くの場合、ここに立法の背景が記載されています。税法ごとに武田昌輔監修『DHCコンメンタール』(第一法規)、および、基本通達逐条解説(大蔵財務協会)が出版されています。
2.古い文献の収集:近代デジタルライブラリー
著作権(著者の死後50年)の切れた文献を国立国会図書館がデジタルデータとして公開しています。多くの税法は、明治時代まで創設の時期をさかのぼれますが、それらの税法の解説書(税法注解)などを無料で閲覧・ダウンロードすることができます。
3.衆議院会議録:衆議院立法情報
解説書などに書いていないような立法時の議論を調べるには、国会議事録に当たる方法があげられます。衆議院については、第1回から直近の第189回国会に至るまですべての本会議の議事録や各種委員会(予算委員会、財務金融委員会など)ホームページ上で閲覧することができます。これらの議事録を見ると立法に至るまでの議論にビビッドに触れることができます。
4.その他
立法の経緯を調べるなど、法律関係の文献を調べる方法をまとめた参考書として、以下の本を紹介します。いしかわまりこ氏の作ったホームページと合わせて是非参考にしてください。
☆ いしかわまりこほか 『リーガルリサーチ』(日本評論社,第4版,2012)
☆ 「法情報 資料室 ☆やさしい法律の調べ方☆」
● 裁判当事者の意見
裁判の当事者の意見を参考にすることも重要な視点です。例えば、判決文作成にかかわった最高裁判所調査官、さらに原告あるいは被告の鑑定意見書を書いた弁護士や学者などが、その裁判に関する判例批評を書いていることがあります。(例えば、興銀事件では、最高裁調査官として阪本勝氏が、鑑定意見書の筆者として中里実教授、錦織淳弁護士がそれぞれ判例評釈を書いています。)最高裁調査官の手になるそれを「判解」ということは既にご紹介しましたが、裁判の当事者の意見を積極的に採用することも説得力を増す方法となります。
● 遠隔地からの資料の取得方法
近くの図書館で文献が集まらないときは、そのコピーを郵送などで取り寄せることも可能です。都内にお住まいの方でも、忙しい時には役に立ちますので、ご参考まで。
1. 国立国会図書館
まずは、日本国内のすべての出版物を収集・保存している「国立国会図書館」で検索しましょう。資料のコピーは郵送でご自宅まで送ってもらうことが可能です。事前登録に時間がかかりますが、進学後も役立ちますので、良ければ、登録しておいてください。
① 資料検索。 国立国会図書館蔵書検索 NDL-OPAC
② 登録後、コピーの請求。国立国会図書館 遠隔複写サービス(要事前登録) 利用料: 24円/枚+発送料150円+消費税
2. 全国の大学図書館
CiNiiで検索するとその文献を収蔵している図書館も表示しています。私立、国公立を問わず、多くの大学図書館は学外の方の利用を認めています。また、その図書館に収蔵していない場合には、その図書館を通して、他の図書館からコピーを取得することが可能ですので、利用方法、料金などをカウンターでご相談ください。
● 意見を主観的に述べる
法律論文とは、「権威づけられた主観」であるといえます。(すいません、全くの私見です。)私たちの書く研究計画書や論文はいわば「まったく権威のない主観」です。このよう文章を「エッセイ(=小論文)」といいます。まずは、主観的で自分らしい意見(問題提起やその結論)を求めてください。その意見の妥当性を説明するために利用するのが「権威」である学者の論文です。
例: 私が「貸倒損失については、。。。との考えるのが妥当だ」(吉村教授)と考えるのは、「債権者の事情について。。。。。が自然である」(品川教授)と考えるからである。
といった感じです(カッコ部分はそれぞれ教授の論文からの引用です)。すべて自分の主観的な意見であっても、そのポイントがすべて有力な学者の意見で補強されていることで、説得力のある文章となります。学説の整理し、妥当な意見を導き出しただけでは何も意見を主張したことにはなりません。特に、計画書の段階では、独創的で主観的な意見を積極的に述べるようにしましょう。
終りに:セレンディピティ
セレンディピティ(Serendipity)という言葉をご存知でしょうか。目的と違う経験の中で、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものに気づく力のことを意味しているようです。研究計画書のことを真剣に考えていると、よく壁にぶつかります。そんなときは、図書館や書店などをぶらっと一回りして、ちょっとでも気になった本をぱらぱらとめくってみてはいかがでしょう。映画を見るのもいいかもしれません。一見関係のない話や経験の中に今考えている問題の糸口が見えることがあります。人によって「神が下りてくる」という人もいます。最終的に、専門性は、総合的な力を反映します。過度に、小さな道に入り込んだ時は、意識して、鳥瞰することが出口を見つけるポイントかもしれません。研究計画書であっても、自分を表現する文章です。その中に、ご自身の価値観、気づきや個性をたくさん反映させた素敵な読み物にしてください。