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【特別号】心理・チュートリアル通信「心理学論述問題のパターン解答法」(2)

2021年度
河合塾KALS 臨床心理士指定大学院講座 チュートリアル通信
チュートリアル通信では、大学院に合格したKALSのチューターが、勉強法や参考図書、研究計画書について、各大学院の様々な情報や、心理士事情など皆さんに有益となるようなコンテンツをお送りしていきます。日々の勉強の合間の息抜きとして、是非ご覧になってみてください。
【特別号】心理・チュートリアル通信「心理学論述問題のパターン解答法」(2)

新宿校チューター : 宮内 裕介  



皆さんこんにちは、KALS新宿本校にてチューターをしています宮内裕介です。
今回は、論述問題を1つのパターンで解答していく手法を説明します。心理療法や心理検査の比較、テストバッテリ-等のテーマが指定されている問題は、皆さん、解答練習を重ねていると思います。それ以外の、社会問題からテーマを見抜いて解答する論述を取り扱っていきます。
下記の6問は受講生から解答の方向性を訊かれた、ある大学院の過去問です。KALSの授業で勉強していれば十分に対応できる問題ではありますが、問題のテーマを読み違えて解答してしまうと減点される可能性があります。テーマを見抜いて、序論・本論・結論に展開アプローチを組み合わせた1つのパターンで全ての問題に解答していきます。解答のクオリティを100%に近づけるよりも、70~80%のクオリティながら機械的に書き進めて試験時間内に全て解答できることを目的とした解答法です。

論述問題のパターン解答法
序論 : 論を展開するアプローチを説明する
本論 : アプローチを具体的に説明して、そこにキーワードを盛り込んでいく
論述の軸は心理士としての役割 (社会問題への論述に疾病の原因と症状だけ書い
ても、得点は伸びないです)
結論 : 本論のまとめと追加説明

3.問題③ 「クライエントが臨床心理士のカウンセリングで“気持ちが分かってもらえた”と思うのは様々な状況がある。3つの例をあげ、それぞれの場合のクライエントの気持ちを説明しなさい」 600字設定

③解答例
クライエント(以下 CLと略す)が臨床心理士のカウンセリングで“気持ちが分かってもらえた”と思う状況を、ロジャーズのカウンセラーの3条件である受容と共感、真実性の3点で論じたい。
受容は無条件の肯定的配慮とも呼ばれる。カウンセラー(以下COと略す)がCLの話を、そのまま無条件に受け入れ、積極的に関わろうとする姿勢のことをいう。具体例としては、COがCLのどんな話にもうなずき、相づちを打ち、CLにとって重要と考えられる言葉は繰り返す。このようなCOの対応が、CLの否定されずに話を聞いてもらえるという安心感に繋がり、CLの自己開示が進むと考えられる。共感は、COがCLの話をCLの立場と視点で理解することである。具体例としては、COがCLの語りを要約することや、開かれた質問と閉ざされた質問をすることで、より深くCLを理解しようとする姿勢がこれに当たる。CLはCOの要約を聞くことと、COから質問を受けることで、自分の気持ちをより理解してもらえたという感情を持てるようになると考えられる。真実性は自己一致とも呼び、COの偽りのない本心とその言葉を指す。具体例としては、CLがCOの感情を反映させる言葉を使うことである。COが本心からCLの心情に寄り添い、“辛かったですね”“よく頑張りましたね”等の言葉を伝えることで、CLは自分の想いを代弁して貰えた、理解してくれたという気持ちが持てるようになる。
COが受容と共感、真実性を具体的に表情と言葉で伝えることで、CLの“気持ちが分かってもらえた”という状況をつくり出すと考えられる。 (637字)

③解説
この問題は“臨床心理士のカウンセリング”とCLの“気持ちが分かってもらえた”という状況に限定されています。そこから判断すると、マイクロカウンセリングがテーマかなと思えました。ただ、解答前に1つ気になったのは“3つの例”に指定されていたことです。“3”に意味があるとしたら、考えられるのは“ロジャーズのカウンセラーの3条件”です。そこで、ロジャーズの3条件を展開アプローチとして使い、3つのカウンセリング技術をキーワードとして挿入していく展開で書きました。カウンセラーの3条件を使うときは順番に意味があるので、受容・共感・真実性の順番は崩さないようにして下さい。

4.問題④ 「昨今、引きこもりの人とその介護者の高齢化が社会問題となっていますが、この問題についてあなたが心理士であったとして、考えたことを述べてください」 1200字設定

④解答例
引きこもりは学校や仕事に行かずに自宅に6ヶ月以上留まり続けている状態を指す。それは社会関係資本を持たない孤立状態であると考えられる。引きこもりの人を介護しているのはその両親であり、高齢化により自身で介護できる限界に達することが予想される。引きこもりの人の孤立とその両親による介護継続の困難さに対して、心理士として生物心理社会モデルとアウトリーチを用いた支援策を論じたい。
引きこもりは社会関係資本を持たない孤立した状態である。生物的側面で考えると、引きこもりの原因には何らかの発達上の問題や精神疾患が影響している可能性は考えられる。心理的側面においては、引きこもる原因となる心の問題が存在していると予想される。それには本人のパーソナリティの他に、家族との関係が影響していることも考えられる。社会的側面においては社会的孤立状態であるため、頼ることのできる社会資源を持っていない。また、引きこもることを本人が選択しているため、本人の援助希求が無ければ、支援者として提供できるサービスが無い。それを考えると、引きこもり支援のスタートは本人の援助希求もしくは、両親からの援助希求、市町村と地域社会の見守りサービス、電話やSNS相談での関わりをつくることであると考えられる。要支援者と接点を持てた後は、アウトリーチが有効となる。多職種でアウトリーチのチームをつくり、専門家同士で情報を共有し、コンサルテーションし合うことでより有効な支援が可能になる。医療の専門家である看護師は訪問看護のアプローチを取り、心理の専門家である心理士は本人が抱えている心の問題を傾聴し、社会面の専門家であるソーシャルワーカーは本人のニーズに合った社会資源を提供する。その際は、支援者側の押し付けとならない様に、要支援者に自主性を発揮して貰う必要がある。心理士が長期間向き合い、本人に素直に自分の気持ちを語ってもらえるような受容、共感姿勢を続けることが重要である。介護者である両親を生物的側面で考えると、高齢による体力低下と認知症発症のリスクを抱えている。心理的側面では、引きこもりの子の将来に対する不安を抱えていることが考えられる。社会的側面においては、介護サービス利用の検討が必要である。アウトリーチでの支援策は、生物的側面においては体力維持と認知症予防、心理的側面においては抱えている悩みの傾聴、社会的側面においては日々の身体的負担を軽減できる介護サービスの情報提供等である。
上記の通り、引きこもりの人とその両親への支援策は、生物心理社会モデルでのアセスメントと多職種連携でのアウトリーチが有効であると考える。また、アセスメントにおいて、引きこもりの原因に両親の養育態度が影響していると考えられた場合には、心理士は両親と子どもの間の関係調整を行なう必要がある。家族間に円環的因果律が認められるときは、その悪い流れを断ちきり、親子関係をもとに戻す調整を行なうことも心理士ができる支援の1つであると考える。 (1236文字)

④解説
引きこもりと介護者の高齢化問題の展開アプローチは、生物心理社会モデルによるアセスメント + アウトリーチ + 家族療法です。引きこもり問題は、発生からの長い年月で複雑化して複数の問題が絡み合っています。また、原因を遡ると、発端は両親の態度だったりします。論述問題の解答としては原因を追及するよりも、心理士として今できることに焦点を合わせて書きます。結論の部分で、家族療法の円環的因果律を断ち切るという表現を付け加える形で良いかと思います。