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【特別号】心理・チュートリアル通信「心理学論述問題のパターン解答法」(3)

2021年度
河合塾KALS 臨床心理士指定大学院講座 チュートリアル通信
チュートリアル通信では、大学院に合格したKALSのチューターが、勉強法や参考図書、研究計画書について、各大学院の様々な情報や、心理士事情など皆さんに有益となるようなコンテンツをお送りしていきます。日々の勉強の合間の息抜きとして、是非ご覧になってみてください。
【特別号】心理・チュートリアル通信「心理学論述問題のパターン解答法」(3)

新宿校チューター : 宮内 裕介  



皆さんこんにちは、KALS新宿本校にてチューターをしています宮内裕介です。
今回は、論述問題を1つのパターンで解答していく手法を説明します。心理療法や心理検査の比較、テストバッテリ-等のテーマが指定されている問題は、皆さん、解答練習を重ねていると思います。それ以外の、社会問題からテーマを見抜いて解答する論述を取り扱っていきます。
下記の6問は受講生から解答の方向性を訊かれた、ある大学院の過去問です。KALSの授業で勉強していれば十分に対応できる問題ではありますが、問題のテーマを読み違えて解答してしまうと減点される可能性があります。テーマを見抜いて、序論・本論・結論に展開アプローチを組み合わせた1つのパターンで全ての問題に解答していきます。解答のクオリティを100%に近づけるよりも、70~80%のクオリティながら機械的に書き進めて試験時間内に全て解答できることを目的とした解答法です。

論述問題のパターン解答法
序論 : 論を展開するアプローチを説明する
本論 : アプローチを具体的に説明して、そこにキーワードを盛り込んでいく
論述の軸は心理士としての役割 (社会問題への論述に疾病の原因と症状だけ書い
ても、得点は伸びないです)
結論 : 本論のまとめと追加説明

5. 問題⑤「児童虐待がしばしばマスコミで報道されている。この問題についてあなたが心理士であったとして、考えたことを述べなさい」 1200字設定

⑤解答例
児童虐待について、心理士の立場で出来る対応策はその予防であると考える。予防策は問題の発生を防ぐ一次予防、問題の深刻化を防ぐ二次予防、問題の再発を防ぐ三次予防に分けることができる。それぞれの段階での有効な予防策を論じたい。
児童虐待は、保護者がその子どもに対して、身体的、心理的、性的な虐待を加えることと、育児放棄であるネグレクトがこれに当たる。家庭内の密室で行なわれるために外部へ表出されにくいことと、子どもと過ごす時間が父親よりも比較的に長い母親による虐待が多いことが、その特徴である。表出されにくいために、危機介入は遅れがちになる。また、子どもにとって虐待者が母親であるので、援助を求める声を上げることができずに虐待を受け続ける状態に陥りやすい。そのため、発生を防ぐ一次予防として重要となるのは、保護者の心のケアと児童への心理教育である。虐待をする保護者には加害者という側面の他に、自身が何らかの悩みや問題を抱えた要援助者であるという側面が隠れている。自らが抱えている問題への不安やストレスが虐待行為を引き起こすという悪循環である。心理士として保護者に対してできることは、抱えている問題や悩みを傾聴することである。その場として市町村管轄の相談センター等の他に、電話相談やオンライン相談、オンライン上のピアグループ等、保護者の目に留まり、かつ利用しやすいハードルの低い相談窓口を用意することが必要となる。児童に対する一次予防策は、心理教育を通して援助希求能力を高めることが有効であると考える。保護者からの虐待に対して、児童が唯一できることは誰かに助けを求めることである。児童に対して「お家でこういうことがあったら、話して」というメッセージを、学校や教育機関で繰り返し伝えることで援助希求能力は高まると考える。二次予防として有効であると考えるのは、多職種による児童へのモニタリングと声かけである。虐待が疑われるときは、児童に何らかの身体的・心理的変化が起こっていると考えられる。その様子を観察できるのは、スクールカウンセラー(心理士)と教師である。多職種が連携し、普段の児童の様子に比べて変化が見られたときは声かけすることで、虐待の早期発見が期待できる。その際、チームとして機能する為には、専門家同士のコンサルテーションと協働するためのネットワークを普段から築いておくことが必要である。三次予防として考えられるのは、再発を防止する為の経過観察とアウトリーチである。多職種で児童を継続的にモニタリングし、ときには声かけを行なう。また、必要であれば、チームとして児童の自宅まで出向き、保護者とコミュニケーションをとる。その際に注意するのは、保護者を虐待者として疑うことではなく、何でも相談してもらえる信頼関係を築くことである。
以上のように、一次予防で保護者のケアと児童への心理教育、二次予防で児童へのモニタリングと声かけ、三次予防で経過観察とアウトリーチを行なうことで、心理士として虐待の予防に寄与できると考える。 (1254文字)

⑤解説
問題文には「しばしばマスコミで報道」と表現されているので、マスコミの報道を鵜呑みにせずに、心理士として調査活動を行なう重要性を考えました。しかし、そのことを論述すると、虐待の予防策とロジカルに文がつながらないので、書かないことにしました。心理士としての役割は、予防策の方がはるかに重要であると考えたためです。展開アプローチはキャプランの予防モデルを使い、第二と第三予防にコミュニティアプローチを組み込みました。平凡な文章になりましたが、最近の院試の頻出パターンに対する模範解答に近いかなと思います。

6.問題⑥「心理臨床の現場において、クライエントに対して心理療法を実施することが相応しくないと想定される場合について述べなさい」 1200字設定

⑥解答例
クライエント(以下CLと略す)に対して心理療法を実施することが相応しくないと想定されるケースを、CLの疾病・身体症状をみる生物的側面、CLの心の状態をみる心理的側面、CLが置かれている環境をみる社会的側面から論じたい。
生物心理社会モデルの生物的側面において、CLへの心理療法の実施で注意すべきは、CLの疾病とその状態を把握することである。疾病とその状態を把握したときに心理療法が有効であるかを判断する必要性がある。CLの疾病が統合失調症等の薬物治療が有効であると考えられる場合と、症状が急性期でカウンセリングを受けられない状態である場合には、心理療法の実施は相応しくない。薬物治療が必要な場合には医療機関へのリファーが適切な判断となり、興奮状態や希死念慮が強くなる急性期には入院による服薬と静養が優先される。急性期を乗り越えた回復期において、心理療法の必要性は再検討される。心理的側面において心理療法が相応しくないと考えられるのは、Clの安全と個人情報を保護できない場合、CLのアセスメントが出来ない場合、ラポール形成ができない場合、転移と逆転移を解消できない場合の4点である。CLの安全と個人情報はカウンセリングの枠内で守られる。安全と個人情報が守られない枠外では、心理療法を実施することは相応しくない。心理アセスメントは観察・面接・検査を通してCLの問題を客観的に捉えることが目的である。問題を明確化することで、CLの問題解決に向けた治療計画の立案が可能となる。客観的な判断が出来ない段階では心理療法は実施すべきではない。インテーク時にラポール形成ができない場合も、心理療法を進めることはできない。この状態ではインフォームドコンセントは結べない。カウンセラー(以下COと略す)として信頼関係構築の障害となっているものを、探り当てることが優先される。転移と逆転移については、CLとCOの抱えている過去のトラウマが影響していると考えられる。転移と逆転移を解消できず、CLとCOの安全が脅かされる可能性がある場合には心理療法は中止すべきである。社会的側面においては、CLの主訴から心理療法が有効であるか、それとも別の手段が有効であるかを判断する必要性がある。CLの主訴が「貧困状態にある現状に耐えることができない、辛い」であった場合、貧困状態を改善することがCLのニーズなのか、辛い気持ちを軽減することがCLのニーズなのかを把握する。CLの辛さが経済的困窮が原因で、それを改善することで辛さが減少すると判断できる場合は、経済状態を改善するための専門家である法律家やソーシャルワーカーにリファーすることが適切な判断となる。
以上のように、生物的側面と心理的側面、社会的側面で多面的な検討をすることで、CLに心理療法を実施することが相応しいかを判断できると考える。また、その際において重要となるのは、各側面においての主観的な判断を科学的な根拠で裏付けることである。
(1205文字)

⑥解説
問題文の「心理療法を実施することが相応しくないと想定される場合」の箇所で、アセスメントがテーマだと分かります。アセスメントがテーマの場合は、展開アプローチは生物心理社会モデルが合致します。また、主観的な判断を科学的なエビデンスで裏付けるというのが結論のパターンになります。私の論述内容以外に、心理療法が相応しくないと考えられるケースは他にあるかもしれません。しかし、生物心理社会モデル + 科学的なエビデンスの展開をしていれば、解答の方向性に大きなズレは発生しないと考えます。

以上6問を1つのパターンで解答しました。序論で展開アプローチを書き、本論でその詳細を説明しキーワードを挿入する、結論で重要な部分を反復するという論述です。展開アプローチを決めた時点で、書く順番はアプローチ定義に沿って書き進めるだけです。また、設定問題は違うのに、解答内容は似通っているのが分かって貰えたかと思います。臨床心理士の役割に焦点を当てると、様々な社会問題であっても、その結論は4業務に収束することになります。
実際の院試ではプレッシャーの中で、時間に追われることになります。社会問題に対する論述であれば、今回の解答パターンが使えると思います。