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心理・チュートリアル通信「直前対策」(1)

2021年秋学期
河合塾KALS 臨床心理士指定大学院講座 チュートリアル通信
チュートリアル通信では、大学院に合格したKALSのチューターが、勉強法や参考図書、研究計画書について、各大学院の様々な情報や、心理士事情など皆さんに有益となるようなコンテンツをお送りしていきます。日々の勉強の合間の息抜きとして、是非ご覧になってみてください。
心理・チュートリアル通信「直前対策」(1)

新宿本校チューター : 宮内  



皆さんこんにちは、新宿本校でチューターをしています宮内裕介です。
今回は、秋試験のレビューをお伝えします。今試験は昨年よりも受験者が増加して、大学院によって1.2~1.4倍になったようです。公認心理士の対応カリキュラムを受けた現役受験生が増えたことが要因の1つと考えられます。受験者数が増えても大学院の合格者数は変わらないので、合格の難易度が上がってしまいました。結果的に、初学者の1次試験突破が難しくなり、内部生の学内内部進学も厳しい結果になりました。受験者増は今後も続くことが考えられますので、今後の重要な受験対策は、1次試験の英語と専門科目の総得点をより多く獲得することになるかと思います。秋期合格者のヒアリングとアンケートから、春期試験対策のヒントとなる内容を解説していきます。


1.1次試験出題範囲の拡大傾向
2.2次試験の新たな方式「グループディスカッション」
3.合格者の2次面接は一問一答ではなく、会話循環型
4.社会人合格者に共通していた、前職と大学院、将来のビジョンがつながるストーリー


1.1次試験出題範囲の拡大傾向

今期試験で出題された語句説明に「*オレンジプラン」「*ICFモデル」「*精神科訪問看護」などが出題されていました。これらに共通するのは、臨床心理学と社会福祉学の重なるところであり、多職種連携による支援を重視している傾向かなと思います。1人のカウンセラーと1人のクライエントから、多職種チームと支援対象のコミュニティへと出題が拡がった印象です。臨床心理学に加えて社会福祉学を勉強しようとすると、勉強範囲が拡がりすぎてしまいます。多職種連携 (精神科リエゾン、精神科デイケアチーム、チーム学校、精神科訪問看護、DPATディーパット) の協働メンバーの職種と役割、それに付随する福祉学のキーワードを抑えるだけで良いかと思います。

* オレンジプラン : 2012年策定の認知症施策推進5か年計画。現在は医療・介護・住まい・生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」を実現する新オレンジプランが推進されている。
* ICFモデル : 国際生活機能分類(International Classification of Functioning Disability and Health)。人間の生活機能と障害について「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3次元とそれらの背景因子となる「環境因子」「個人因子」から構成される。クライエントが抱える問題は環境との相互作用の結果と捉え、本人の強み(ストレングスモデル)に基づいたライフスタイルの形成を支援することが重要とされる。
* 精神科訪問看護 : 医療保険、自立支援医療制度の対象。医師の指示のもとに、看護師・臨床心理士・精神保健福祉士・作業療法士等が連携し、クライエント宅を訪問する。健康相談、服薬管理、身体合併症の予防、困りごと相談の対応、社会資源の活用支援、生活リズムの調整などを行う。精神科訪問看護は、アウトリーチ(地域出張訪問)の1つの支援形態。


2.2次試験の新たな方式「グループディスカッション」
今期試験では、グループディスカッション(以下GD)を2次試験に取り入れる大学院が増えました。立教大学院、法政大学院、神奈川大学院、帝京平成大学院、大妻女子大学院等で実施されています。通常の2次試験での個人面接に加えて、GDを導入する目的はいくつか考えられます。

■GD導入の目的と考えられること
(1)メンバーとの交流と相互理解が促進されているか
(2)グループ内での自分の役割を理解しているか
(3)他者への理解とフィードバックはあるか

(1)はメンバーとの調和性です。大学院の授業では頻繁にGDを行うので、メンバー間における相互理解が重要になります。相互理解によって、場の心理的安全性や議論の深まりがもたらされます。(2)はグループ内で役割を果たしているかを観ています。役割は、ファシリテーター役(進行役)、フォロワー役(ファシリテーターをフォローする役割)、書記、アイデアを出す役に分かれます。受験時は、自分に向いている役割を選ぶようにしましょう。注意点として、ファシリテーター役は進行役であってリーダー役ではないので、メンバーとの対等な関係を忘れないことです。社会人出身者で、短時間で物事を決定する会議に慣れている人は、同じ要領でGDを仕切ってしまうことがあります。多数決的な発想をしたり、自分の意見を押し付けたり、メンバーの意見を否定したりすれば、一発で不合格です。また、GDの雰囲気に馴染めずに、傍観者になってしまうことにも注意しましょう。自分の意見を言うのに時間が掛かるようであれば、事前練習に時間をかけましょう。(3)はメンバーの話を傾聴し、そのまま理解することです。理解不足であれば、質問しても構いません。聴いた後は、正のフィードバックをしましょう。メンバーの意見を否定しないことは、GDの基本ルールです。

■今期試験で出題されたGDのテーマ
テーマ1 うつ病で会社を休職し、リワーク施設で順調に回復していたAさんが職場復帰直前になって、体調不良を訴えてきた。Aさんの心身に何が起こっていると考えられるか?
テーマ2 チック症を持つ小学4年生の両親が相談に来た。相談内容の逐語記録を読んで、感じたこと、考えたことを述べなさい。
テーマ3 複雑性PTSDの状態にあるクライエントを支援する上で、注意すべき点を述べなさい。

多様なテーマで出題されていますが、臨床心理士4業務と生物心理社会モデルのアセスメントをベースにすれば対応できると思います。GDは結果よりも、上記のようにプロセスが評価される試験です。メンバーと調和し、自分の役割を取り、メンバーにポジティブなフィードバックを返すことを覚えておきましょう。


3.合格者の2次面接は一問一答ではなく、会話循環型

今期試験ではオンライン面接が導入されたこともあり、圧迫面接は少なく、会話循環型の面接が多かったようです。合格者の2次面接の内容で共通していたのは、一問一答の面接ではなく、面接官と通常と変わらない会話をしていたことでした。

面接で訊かれた内容
(1)臨床心理士を目指すきっかけと院の志望動機
(2)将来のビジョン
(3)自身のパーソナリティ
(4)研究計画のテーマと統計の基礎知識
(5)併願校・予備校利用の有無

受験校が違っても、面接で訊かれた内容はほぼ同じでした。(1)の臨床心理士を目指すきっかけは、中高生時代のスクールカウンセリング体験やボランティア体験を話した受験生が多かったです。院の志望動機は指導を希望する教授と院の教育プログラムを理由として挙げています。(2)の将来のビジョンは、活動領域と職種、支援対象者を具体的に挙げていました。(3)は自身の長所や短所、心理士を目指す上での課題などの質問の他に、「自分は臨床心理士に向いていると思うか?」、「どのような臨床心理士になりたいか?」「世代の異なる同級生と、どう付き合っていくか?」、「同級生があなたを嫌ってきたら、どうするか?」、「外部実習でトラブルが起きたらどうするか?」等を訊かれています。想定外の質問もあったようでしたが、冷静さを保って返答したことは全員に共通しています。(4)は研究計画のテーマや仮説を訊く質問と、調査・分析方法に対するツッコミ質問に分かれていました。合格者のほぼ全員が、ツッコミ質問には上手く答えらなかったと振り返っています。面接者側が意図的に難しい質問をして、その反応を観察したような印象です。そのような質問に対する答えとして、「知識不足だったので、院入学後の課題にしたいと思います」、「調査方法に関しては、倫理的な配慮を再検討します」、「分析方法については、再度相談させてもらえたらと思います」など、分からないことを素直に認めて返答しています。また、今面接は全体的に一問一答の面接ではなく、質問に対する受験生の返答に対して、更にそれを掘り下げる質問が続いていたのが特徴でした。

■面接例 受験生 「冷静なアセスメントと、受容的な対応ができる臨床心理士になりたいと思います」  
面接官 「それはクライエントにとって、どんな意味があるのだろうか?」
受験生 「クライエントを支援するには、冷静な査定と受容的な態度の両方が必要だと考えています」
面接官 「なぜ、そう考えるのですか?」
受験生 「客観的なエビデンスによる治療方針と、クライエントが安心できる傾聴姿勢が支援には有効だと考えています」

上記の様に会話が循環していくような面接です。スムーズな会話循環とはいかなかったものの、合格者は頭が整理されていない状態で返答しない冷静さと、解らないことは院での課題にしていきますといった誠実さで対応していました。また、合格者は面接練習を平均3~5回していました。練習するときの課題として、会話慣れして緊張を抑えること、想定される質問に対して返答内容を考えること、想定外の質問に対して返答の仕方を決めること、避けるべき返答内容(過去の心的外傷体験等)を確認することなどを挙げていました。


4.社会人合格者に共通していた、前職と大学院、将来のビジョンがつながるストーリー

社会人合格者に共通していたのは、前職と大学院、将来のビジョンをストーリーとして面接で語ったことです。産業領域であれば、「前職が総務部勤務で、うつ病休職者の窓口として当事者と面談を行っていた。面談の中で休職手続きの説明以外で、本人の不安にどう寄り添えば良いのかが分からなかった。大学院ではメンタルヘルスとうつ病からの回復支援を体系的に学び、卒業後は企業内の保健スタッフとして従事したい」 といったストーリーです。医療領域であれば、「今まで看護師として精神科病院に勤務していた。その経験において、身体へのアプローチと同じくらい、認知と行動へのアプローチに効果があることが分かった。大学院では認知行動療法を学び、卒業後は当事者を身体面と心理面の両方から支援できるリワークスタッフとして働きたい」という感じです。福祉領域であれば、「今まで会社勤務とは別に、発達障害を持つ児童の学習支援ボランティアを続けてきた。会社で働くよりも支援職が自分に合っていることが分かった。大学院では座学として発達心理学、実践としてプレイセラピーを中心に学びたい。卒業後は、発達障害を持っていても、児童本人が前向きに人生を歩んでいけるような関わりができる福祉職として働きたい」というストーリーです。
臨床心理系大学院の教育プログラムは、大学とは違い、学生が収める授業料の数倍の費用をかけて、学生を臨床心理士として育成します。ほとんどの臨床系大学院が赤字経営をしているのが実態です。赤字経営でも開校しているのは、臨床心理学で社会に貢献できる有益な人材を輩出するという大学院の方針のもとです。そのような方針では、合格者となるのは上記のような社会に貢献できる明確なビジョンを持った受験生になります。「昔から○○心理学に興味があった」「第2の人生として心理職をやってみたい」「資格を取ることが自身のキャリアになる」「子育てが一息ついたので学び直したい」などの自分の趣味やキャリアを動機として語ってしまうと、評価されません。
単なる興味、関心が院受験の出発点だとしても、臨床心理士として社会に貢献できる自身のストーリーを考えてみてください。

以上が秋期試験のレビューです。この通り実行すれば合格するという絶対的なものではありませんが、内容を読んで頂いて、効果がありそうだというものがあれば春期試験に向けた対策に取り入れてみて下さい。