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【2016春VER.】チュートリアル通信第2回 合格者が語る!研究計画書とは?

チュートリアル通信
「税法」科目免除大学院チュートリアル通信。「税法」科目免除大学院 試験合格者が試験対策や試験情報などを皆様に教えるコンテンツ。
チュートリアル通信では、大学院に合格したKALSのチューターが、試験対策や参考図書、研究計画書について、各大学院の様々な情報や、税法関連の小ネタなど、
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河合塾KALS 税理士「税法」科目免除大学院 講座

第2回 研究計画書とは?:「研究」と「学習」の違い



研究計画書の個別指導が始まり、研究計画書についての相談が多いようです。そこで、今回と次回の2回に分けて、研究計画書の基礎について、少し触れてみようと思います。

〇「研究」と「学習」の違い
まず、研究計画書とは、何でしょうか。皆様が入学後、2年間かけて研究しようとしている修士論文を書き上げるための計画書だということは、既に、お分かりかと思います。この際にまず、気を付けなければいけないのは、「学習」計画書ではないということです。

では、「学習」と「研究」では何が違うのでしょうか。「組織再編のことについて、関心があるけれど、あまりよく知らないので、大学院に行ったら、それについて研究したい。」といった、お話を聞くことが時々あります。このように、イメージされている「研究」が、その関連する専門書籍を読んだり、教授の講義を聞くことを指しているとしたら、それは、既知のことを「学習」することにすぎません。教科書のように既にまとめられていたり、教授が講義できるような内容の「学習」を踏まえて、未だ、共通した考え方の定まっていない未知の領域に道をひらく行為を「研究」といい、その成果を文章にまとめたものを「論文」といいます。登山でいうと、整備された遊歩道や階段があったりするところを登るのが、「スポーツ(=学習)」であり、その先に、明確にできていない登山ルートを開拓する行為が「冒険(=研究)」という感じでしょうか。
研究計画書の段階で、「研究」を行っている必要はありませんが、研究の準備をしていることを示す必要があります。「学習」と「研究」の違いについて、少しイメージできたでしょうか?

〇研究テーマの選び方

研究計画書を作成するために、まず、研究テーマを選ばなければなりません。さまざまなテーマの取り上げ方がありますが、税法の分野では、過去に裁判で争われた事件の中で取扱われた争点をテーマにすることが最も一般的な方法となっています。

そこで、まずは、税法に関する判例を選択しなければなりません。講義の中では、面白そうな判例がいくつも紹介されます。そして、その判決の中で下された判断が、自分の考えと違うと感じたり、その結果がまだ解決されていない問題の糸口になると感じたら、それが「問題意識」(=研究テーマ)となり、その判決や争点についての先行研究などを引用しながら、自分の考えが妥当であることを客観的に論述するのが学術論文であり、その準備として概要をまとめたものが研究計画書です。入学時には、研究計画書を見ることで、修士論文を書く力が判断されます。そのため、最も重要な出願書類といっても良いでしょう。

選択する判例は修士論文のテーマとしてもふさわしい論点を持っていなければいけませんが、講義で取り上げる判例や租税判例百選などの判例集から選べば大丈夫です。また、社会経験の少ない方は、信義則などの租税法の基本原則にかかわる判例を選ぶと取り組みやすいかもしれません。また、地裁、高裁、最高裁で判断の異なる結果となったものを選ぶと、学者の判例評釈も多く、比較的書きやすいものとなります。
そして、研究テーマは入学後、ほとんどの方が変更しますので、まずは、入学のためと割り切って、今、関心があって書きやすいものを選択しましょう。

選択したテーマがご自身のご経験や、経歴などとできるだけ関係のあるものであれば、志望動機や口頭試問の際にも説得力のある説明ができますので、意識してみてください。


〇文献表示の方法

研究計画書の中では、自分の文章の中に、先行研究者の言葉を引用することになります。その場合、文中、引用した場所が明確になるようにしなければいけません。一般的には、カギ括弧(「」)を使って引用した部分を区切ります。そして、その引用した文献を脚注や参考文献リストなどで明らかにすることになります。

文献の表示方法については、海外ではとても厳密なルールが規定されていて、おかげで論文の検索が容易になっています。日本でも、それにならって表示方法を統一しようという流れがあり、現在の成果がオンラインで取得できますので、是非、以下のサイトから、ダウンロードしてください。

法教育支援センター「法律文献等の出典の表示方法」(2014年版)

〇文献表示例

(1)判例批評(判例評釈、判例研究、判例解説などともいう。特定の判決に対しての学者の批評文)
増井良啓「判批」租税法研究30号162頁(2002)

(2)判例(裁判の先例。一般的には、最高裁の判決を指すと考えてください。)
最二小判平成23年2月18日判タ1345号115頁

(3)雑誌論文(論文の中で、定期刊行物に発表されたもの)
田中治「租税法律主義の現代的意義」税法学566号243頁(2011)

(4)書籍
金子宏『租税法』(弘文堂、第20版、2015)

それぞれ、「あれ、私の見た表示方法と違うぞ?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、残念ながら、学者がすべてこのルールに従っているとは限りません。バリエーションもありますので、研究計画書の段階で、それほど神経質にルールにこだわる必要はありませんが、少なくとも、統一した方法を採用してください。

おまけ:文献データベースを作る

論文をたくさん読むと、だんだん、どこに書いていたことかわからなくなります。そこで、初めの段階から、文献のデータベース化を検討してみてはいかがでしょうか。目的は主に、2つです。

(1) 参考文献リストの作成 Excel、Access、Filemaker Proなどで。
(2) 文献で気になった内容のメモ Word、Evernote、PDFなどで。

いろんな、やり方があると思いますが、一番手頃なExcelを使った場合、コピーを取った論文は、前回ご紹介した文献表示方法でまめにリストを作成します。要素(作者、雑誌名など)ごとに分解しておくと検索がより便利になります。うっかり、同じ論文を2度コピーするなどはなくなります。

内容やアイデアのメモには、WordやEvernoteが便利です。論文を読んでいて、気になった内容やそれについての考えを自分の言葉(100字程度以内)で書き留めておきます。その際に、必ず、その論文名やページ数などを文献表示方法でメモしておいてください。コピーの上に、書き込むのが好きな方は、思い切って、論文をスキャナーやスマホのカメラでPDF化してはいかがでしょうか。スマホ用のアプリには、PDF上に文字を書き込んだり、マーカーを引いたりすることができるものもあります(iOS用のGoodReaderやAndroid用のezPDF Readerなど)。このようデータ化しておくと、キーワードで検索をすることもでき便利です。文献データベースや論文作成支援用の無料ソフトなども多数ありますので、自分なりにいろいろ工夫してみてください。

終わりに

研究計画書の基礎の第一回として、「研究」とはなんであるかをご説明しました。学習が中心となる大学までとは違い、大学院は「自学自習」の場です。といっても、入学前の段階で研究者である必要はありませんので、ご心配なく。これからの2年間、研究を通した成長を楽しみにしてください。

文献表示のルールは、慣れるまでに時間がかかりますが、整っていると、とても目立ちます。これから、少しずつ慣れていってください。研究計画書の段階で、文献のデータベース化は、正直不要ですが、入学後にきっと役に立ちますので、記憶にとどめておいてください。